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eπi +1=0

Wed.10.03.2010 0 comments
久しぶりに、じっくり本を読んだ。
お風呂の中や、お布団の中で。
いいなぁ、と思ったものを
きちんと理解して、人に説明できるようになりたい
って思ったから、
いいなぁ、でゆらゆらさせておくだけじゃなくて、
ちゃんと文章にしてみようと思った。
けど、たぶんうまくいかないかもなあ。


「作家は最初の2~3行に全てを込めるから
冒頭を読めば、だいたいそこで好きかどうかわかります。」
というのをどこかで読んで、
わたしもこの本を本屋さんで立ち読みしたときに
冒頭の2~3行で好きかも、と思ったので
買って読むことにした。

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

 彼のことを、私と息子は博士と呼んだ。
そして博士は息子を、ルートと呼んだ。
息子の頭のてっぺんが、ルート記号のように平らだったからだ。


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というのが最初の2~3行だった。

この話は、64歳の数論専門の元大学教師の博士と
家政婦として派遣された私と、10歳の息子の話。

博士は、17年前に交通事故に遭って頭を打ってから、
ものごとを記憶する能力が失われてしまい
80分しか記憶が持たない。
30年前に自分が見つけた定理は覚えていても、
昨日食べた夕食のメニューは覚えていない。
博士はいつも背広を着ていて、大事なことをメモに書いて
背広に貼付けてある。
博士が動くたびに、そのメモがかさこそと音がする。
メモには意味不明の記号や数字や言葉の断片が書かれてあり、
それらに加えて
「僕の記憶は80分しかもたない。」
「新しい家政婦さん。」「と、そこの息子10歳」というメモが
貼付けられている。

博士は毎日、玄関に現れる初対面の家政婦さんに
靴のサイズや電話番号、郵便番号や自転車の登録ナンバーをたずねた。
数字が博士にとっての言葉であり、相手と握手をかわす手段であり
自分を守るオーバーの役割をしていた。

博士はその数字が友愛数
(ふたつの数字の約数の和が、お互いに相手の数字と等しくなるという数。
たとえば220と284。
220の約数を足したものは、1+2+4+5+10+11+20+22+44+55+110=284
284の約数を足したものは、1+2+71+142=220)
や素数、完全数かどうか、
瞬時に見つけられた。

数式の絶対的な正しさ。
奇跡的な確率で結ばれる数字の組み合わせ。

それに比較して
記憶が80分しかもたない、という博士の不完全さ。

=(イコール)で結ばれていることは、
絶対的に等しくなくてはいけない。
等しくなければ、=では結ばれないから。
だから数式には、ゆらぐことのない、
誰にもじゃまされない、潔いものがある。

どんなに確かだと思ったものでも、
80分たてば、博士のなかでは、それは消えてしまうから、
数式の、何があっても狂うことのない
絶対的な存在に、博士は惹かれていたのかもしれない。

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

博士は常に静けさを求めた。
「ああ、静かだ。」
数学の問題を解いて、正解を得た時に感じるのは
喜びや解放ではなく、静けさだった。
昔からずっと変わらずそうであったかのような、
そしてこれからも永遠にそうであり続ける確信に満ちた状態。
博士はそれを愛していた。


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「真実の直線はどこにあるか。それはここにしかない」
博士は自分の胸に手を当てた。虚数について教えてくれた時と同じだった。
「物質にも自然現象にも感情にも左右されない、
 永遠の真実は、目には見えないのだ。
 数学はその姿を解明し、表現することができる。
 なにものもそれを邪魔できない。」


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窓からまっすぐの光が差し込むような
この小説のことを自分の言葉で書こうと思ったけれど
小説を引用するほかに私の言葉でうまく書ける自信がない。
この小説は、内容を伝えるとともにその情景まで美しく描かれていて
文章がとても美しいのだと思う。
台詞のすくない、たたずまいや留まる空気を映す映画のよう。
読んだ後も、廊下の向こうから歩いてくる博士の胸から下がった
カードケースのゆらめきが、光に反射してキラキラしている情景が
ずっと頭に残った。

実際のわたしたちの身の回りにあるのは、
曖昧で不確実なことばかりで
だからこういう小説に惹かれるんだろう。

博士が数式に惹かれるのと同じようなものかな。



「博士の愛した数式」 小川洋子

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